会計のAIとはなにを示しているのか

今回は、AI技術と会計について、世間で言われていることと実態について考察してみようと思います。

AIで経理や会計士はいらなくなる?

昔から事務系の仕事はしばしば、新しい技術によって代替されてきました。しかし、大抵の場合、基本的に記帳だけやるような人以外は、一応スキルをつけて職に就こうという考えで生きている人たちなので、現実にあまり職がなくなるということはなかったと思います。※NASAのロケットの計算をしていた人もIBMの計算機の登場で職がなくなりましたが、その後そのIBMの計算機運用のプログラマになったり、金融のプログラマになってたぶんかなり給料上がりました。

そもそも会計士については基本的に会計ルールの背景にある考え方、管理目的の会計理論・文書の証拠力や統計学など種々の調査能力・会社法・税法が資格試験や合格後の研修や実務で担保できるスキルセットなので(ちなみに昔は税法に関しては試験が難しいとか以前にほとんど試験で問われなかったので、自主学習しないとほとんど担保できなかったと思います)、会計が自動化されようがどうでもいいのですが。※ちなみに会計システムは昔も今もほとんどは会計士が開発に関わっています。

ところでAIで会計業務がなくなるとは具体的にどういうことなのでしょうか。

AIとは

AIとは人工知能のことで、機械学習・深層学習・強化学習に分けられると思います。

機械学習について

最近では機械学習のためのデータや計算ツールの発展で非常に効果的に行えるようになりましたが、これ自体は古くからある考えで、いくつかの条件をもとに一定の数値を求めるモデルを作ることで、一例をあげれば、その日の日照時間や湿度等とその条件に対応する電力使用量のデータをいくつもあつめてやると、将来の日の電力使用量を予測するための計算式ができます。

Y(電力使用量)=X1×日照時間+X2×湿度・・・

のような感じです。統計について勉強していたらわかりますが、全く同じ原理で、これをML(マシンラーニング=機械学習)と呼んで、よくAIツールと言って販売されています。

画像認識やチャットボットなども同じ原理で、ある写真についてこれは猫だという情報を与えてやり学習、A写真=猫、B=写真=犬みたいなデータを大量に集めて(学習させ)、モデルを作ると、そのモデルなんの情報を与えていないα写真を与えてやると、統計的に猫だと判断させるというものです。

似たようなことは既に広く行われており、数字に強い社長であれば、こういった場合にはこれぐらい売上でて、こういった場合にはこれぐらい費用がかかってこれぐらいの利益が出るなど、厳密ではないにしても頭でモデルを作って統計的な判断をしているはずです。融資審査なども定量評価が多くを占めており、過去に未回収率が高い決算書というものをモデル化して(流動比率が低い、経常利益が少ない)判断しています。

しかし、昔からある考えだからといって、機械技術が不要であったり、詐欺のようなコンテンツなどであるかというとそんなことは全くなく、むしろ圧倒的に利便性があがっているため、有効活用すべきです。

機械学習の最新技術を用いる理由が2つあります。

一つ目は、いろいろな技術が発達して、携帯の電波・wifi・電子決済・web閲覧履歴・ヒートマップなど活用できるデータの量が多くなり、しかも無料または安価に活用できるようになっています。しかも、システム開発自体も技術の発達により簡単かつ効率的になり、データが人間が判断しやすいように提供されるようになりました。これにより正確な判断をするための材料が整ったといえます。

二つ目は、データを活用したモデルの組み立てをするためのデータ保存サーバーやデータからモデルを算出したり、モデルを使った計算ツールが発展し、安価・高速で正確な判断ができるようになったといえます。

以上により昔よりも機械学習の可用性が飛躍的に向上し、費用対効果や迅速性が要求される、実際のビジネスの現場での利用が可能になったといえます。

しかも、月数万~10数万という値段(従量制で小さなビジネスなら無料かもっと低料金)かつクラウド技術などにより、自社で利用するための環境整備の費用や時間など必要もなくなったため、後は技術を扱える人材さえいれば、小規模な事業者でも効果的で効率的なビジネス判断ができるようになりました。

深層学習について

特に昨今、AIがちまたで騒がれだしたのは、深層学習が要因です。深層学習とは、データからの特徴量の抽出と系列データの作成をする技術です。

例えば、画像や音声などの複雑な情報を考えると、そのデータは256万画素の一番左上のデータは限りなく白に近いグレーその右のデータはそれよりも少し白に近いグレーのような情報しかコンピューターに認識させられません。そうすると、その画像が猫だとして、与えた画像データから猫だと判断させる数式モデル{Y=X1×(この部分がこの色のデータ)+X2×(この部分がこの色のデータ)・・・}を作成するのは、人間の手では現実に不可能に近いと考えられます。これを解決するのが深層学習で、猫の写真や犬の写真などを何百万枚を与えると、そのデータの特徴を自動的に抽出し、特徴ごとに自動的に分類することができます。結果的に、複雑なモデルが必要と考えられる画像や音声について高精度で分析するための解決策になりました。

強化学習について

深層学習と並んで更に話題になっているのが、強化学習・深層強化学習です。例えば、囲碁や自動運転に使われています。強化学習は一定の状態のもとで、どのような行動をとれば、報酬が最大化するかを計算するアプローチです。

たとえば、囲碁では、ある一定の盤面からより勝利に近づくように報酬を複数設定(有利な盤面に報酬を、勝利の盤面に最大の報酬を与えるなど)、自動運転では、物や人にぶつからないように報酬を複数設定(ぶつかったら大幅に減点するなど)して、何度もシュミレーションして、ある一定の状態で最適な行動をとるモデルを作成します。深層学習を組み合わせることで(深層強化学習)、画像などの複雑な情報について特徴量からモデルを組み立てることが可能になります。

一方で、シュミレーションが困難な場合には、強化学習を用いることはできません。例えば、事業失敗や人の生死については、実際に何度もやってみるというのは現実的ではないですから、向いていません。

AIは会計業務を自動化するか

記帳について

まず、記帳について、勘定科目、日付、金額、そして、消費税率と内容を把握して入力することが業務上の最低要件になります。

勘定科目については請求書には相手方名・品目が書かれているので、おおむねそこから何の代金なのかを統計的に把握することは可能です。業種なども事前にデータがあれば把握できます。しかし、正確性という観点からは、品目にイレギュラーな書き方がされれば精度は下がると考えられます。※もっとも、人間がやってもその点は同じだと思いますが。

日付・金額は手書きでもAIで統計的に判断することは可能ですね。

消費税については、品目が正確性が保たれていれば、基本的には判断可能です。そもそも普通は請求書にかかれているので読み取るだけです。しかし、実際に請求する側が消費税が課税されるのか・非課税なのか・不課税なのかを判断するにはビジネスをする側の思考をAIに与えてやらなければならないので、これは思考回路をつなげるような技術が必要になり、厳しいでしょう。言語化して文書などに正確に落とし込めれば機械学習の方で統計的に判断できるとは思いますが。

内容については、少なくとも少額のものは、税務署が読んで消費税が課税されるか・非課税なのか・不課税なのかを判断できればよく、上記までの判断過程が正確であれば問題なければ、そのままAIが判断した過程である品目名や相手先を転記してやればいいでしょう。ただし、会社規模等によって異なりますが一定以上の金額・内容のものは、会社管理目的、及び、税務署・株主・銀行などへの説明のためには、内容ごとに支出を集計したりする必要があり、AIの統計にもとづく記載は目的に沿わない場合もあるので、記載を考える必要があります。また、文書にかかれている情報で十分でない場合もあります。もっとも、定期に一定額の物が発生するというものであれば、毎回ロールフォワードしていけばいいのでAIすら必要がないかもしれませんが、自動で記帳も可能とは思われます。

以上より、特に内容について把握するという観点から、会社の方針などによっては、AIによっても記帳を完全に自動化するのは難しいと考えられます。基本的には、数値で管理を行わない・ステークホルダーがいない中小企業や少額の取引に用いられるのが限界かと思われます。それ以外は統計的手法がそぐわないのでシステムの要件定義が不能です。

なお、付け加えると売上側については、事業として行う場合は反復継続的に行うので(そもそも反復継続的に行わなければ事業の定義に入りません。)、はるか昔から事業の種類ごとに自動で記録して集計して記帳まで行われており、AI以前に基本的に自動化されています。

記帳以外について

帳簿から集計して目的にあった資料(決算書・資金繰資料・経営計画資料など)を作る場合は部分的に統計的な技術を用いる場合もありますが(例えば、計画作成における需要予測・収益予測をデータをビッグデータを用いて統計的に分析するなど)、これはツールとして統計的手法を用いるとしても、適切に行われていなかったものを高度化するためのものです。目的によってカスタマイズする点で判断を介入させる必要性があります。

相談や税法解釈もまず無理でしょう。相談は個別性があり統計ではないですし、(これも説明の根拠のためのツールとして使う場合はあるかもしれませんが)、法律判断については同じ条件であれば基本的に判例通り判断されるとしても、社会状況や事案の条件が変われば異なった判断がされます。そもそも全く同じ条件で判例が何千件も蓄積されていないので、統計的な判断はそぐわないのではないでしょうか。

結論としてはなくならないでしょう。

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